松尾芭蕉の有名な俳句16句
松尾芭蕉は、江戸時代の前半に生きた俳人です。
生涯に何度も長い旅に出て、行く先々の景色を句に詠みました。
有名な句を季節ごとに、季語と意味を添えて紹介します。

有名な句と季語
春の俳句
古池や蛙飛こむ水のをと
『春の日』より
季語:蛙(春)
古い池に蛙が飛びこみ、水の音がした。
静まりかえった池に一度だけ音が立ち、また静けさが戻る様子が浮かびます。
「をと」は「音」のことです。
蛙はカエルの古い呼び名で、春の季語です。
山路來て何やらゆかしすみれ草
『野ざらし紀行』より
季語:菫(春)
山道を越えてくると、すみれが咲いていて、なんとなく心がひかれた。
「ゆかし」は、心がひかれる、という意味です。
「大津に出る道、山路をこえて」という前書が付いています。
前書は、句の前に添えた短い文のことです。
すみれは、春に紫の花を咲かせる小さな草で、春の季語です。
草の戸も住替る代ぞひなの家
『おくのほそ道』より
季語:雛(春)
この粗末な住まいも、住む人が替わるときが来た。
次に住む人のもとでは、雛人形を飾る家になるだろう。
「草の戸」は、芭蕉が暮らしていた質素な家のことです。
芭蕉が住まいを人に譲って移るときの句です。
雛は雛人形のことで、雛人形を飾る雛祭とともに春の季語です。
行はるや鳥啼うをの目は泪
『鳥之道』より
季語:行く春(春)
過ぎていく春を惜しんで、鳥は鳴き、魚の目には涙がにじんでいる。
「うを」は魚のことです。
長い旅に出る日に、見送りの人たちと別れる場面を書いた前書が付いています。
別れのつらさを、鳥や魚にまで重ねた句です。
行く春は、終わろうとしている春をいう季語です。
夏の俳句
夏草や兵共がゆめの跡
『猿蓑』より
季語:夏草(夏)
夏草が一面に茂っている。
ここは昔、武士たちが手柄を夢見て戦った跡だ。
「兵」は武士のことです。
「奥州高館にて」(奥州の高館で)という前書があります。
夏草は、夏の日ざしを受けて勢いよく茂る草をいう季語です。
五月雨をあつめて早し最上川
『おくのほそ道』より
季語:五月雨(夏)
降り続いた五月雨の水を集めて、最上川が速く流れている。
五月雨は、梅雨どきの長雨のことで、夏の季語です。
閑さや岩にしみ入蟬の聲
『おくのほそ道』より
季語:蝉(夏)
あたりはしんと静まりかえり、蝉の声だけが岩にしみこんでいくように聞こえる。
寺の名の「立石寺」が前書になっています。
蟬・聲は、蝉・声の古い字です。
蝉は夏の季語です。
蛸壺やはかなき夢を夏の月
『猿蓑』より
季語:夏の月(夏)
蛸壺に入った蛸は、朝には引き上げられるとも知らずに、夏の月の下で、はかない夢を見ている。
蛸壺は、蛸をとるための壺です。
「明石夜泊」(明石の海で、舟に泊まった夜)という前書があります。
夏の月は、夏の夜の月をいう季語です。
秋の俳句
荒海や佐渡によこたふ天河
『おくのほそ道』より
季語:天の川(秋)
荒れた海の向こうに佐渡の島があり、その上の空に天の川が横たわっている。
「よこたふ」は、横たわる、という意味です。
天の川は夏から秋の夜空によく見え、秋の季語です。
名月や池をめぐりて夜もすがら
『孤松』より
季語:名月(秋)
名月の夜、池のまわりを歩きながら、一晩じゅう月を眺めていた。
「夜もすがら」は、一晩じゅう、という意味です。
名月は、ふつう陰暦(昔の暦)の八月十五日の夜の月をいいます。
秋深き隣は何をする人ぞ
『笈日記』より
季語:秋深し(秋)
秋も深まった。
隣の人は何をして暮らしているのだろうか。
芭蕉が亡くなった年の秋に詠んだ句です。
「秋深し」は、秋も終わりに近づき、季節がすっかり深まったころをいう季語です。
此道や行人なしに秋の暮
『其便』より
季語:秋の暮(秋)
この道を行く人はだれもいない。
秋の夕暮れである。
「所思」(思うところ)という前書が付いています。
秋の暮は、秋の夕暮れをいう季語で、秋の終わりごろを指すこともあります。
冬の俳句
初しぐれ猿も小蓑をほしげ也
『猿蓑』より
季語:初時雨(冬)
今年初めての時雨が降ってきた。
猿も小さな蓑を欲しそうにしている。
時雨は、秋の終わりから冬の初めにかけて、さっと降ってはやむ雨です。
初時雨は、その年に初めて降る時雨です。
蓑は、わらなどで編んだ昔の雨具です。
海くれて鴨のこゑほのかに白し
『野ざらし紀行』より
季語:鴨(冬)
海に日が暮れて、鴨の鳴く声が、ほのかに白く感じられる。
耳で聞いた声を「白し」と色で言い表しています。
「海邊に日暮して」(海辺で日を暮らして)という前書があります。
鴨は、寒くなると北の国から渡ってくる水鳥で、冬の季語です。
いざ行む雪見にころぶ所まで
『笈の小文』より
季語:雪見(冬)
さあ、雪見に出かけよう。
雪で転んでしまうところまで。
「いざ」は、さあ、と人を誘う言葉です。
本屋に立ち寄って休んでいるうちに雪が降り出した、という前書があります。
雪見は冬の季語です。
旅に病で夢は枯野をかけ廻る
『笈日記』より
季語:枯野(冬)
旅の途中で病気になって寝ているが、夢の中では枯野をかけめぐっている。
「病中吟」(病気の中で詠んだ句)という前書があります。
芭蕉は、この句を詠んだ年に旅先で亡くなりました。
枯野は、草も木も枯れた冬の野原です。
松尾芭蕉はどんな人か

芭蕉が生まれたのは1644年、伊賀国(今の三重県)の上野です。
もとの名を宗房といいます。
若いころは藤堂良忠という人の家に仕えていました。
俳諧の好きな主人のもとで、芭蕉も俳諧を始めます。
俳諧は、何人かで句を付け合ってつないでいく文芸で、今の俳句のもとになったものです。
1666年に良忠が亡くなり、芭蕉はその数年後に江戸へ出ました。
1680年からは江戸の深川に住み、その住まいが「芭蕉庵」です。
「芭蕉」という名は、この庵の名をとったものです。
『おくのほそ道』は、1689年の旅をもとにしています。
芭蕉は弟子の曾良と江戸を発ち、東北地方から北陸へ回って、美濃の大垣に着きました。
日数はおよそ5か月です。
1694年、旅の途中の大坂で病気にかかり、芭蕉は亡くなりました。
年は数え年で51歳です。
数え年では、生まれたときを1歳と数え、正月が来るごとに1つ年をとります。
亡くなった日の陰暦(昔の暦)十月十二日は、「芭蕉忌」として冬の季語になっています。