松尾芭蕉の有名な俳句16句

松尾芭蕉まつおばしょうは、江戸時代の前半に生きた俳人です。
生涯に何度も長い旅に出て、行く先々の景色を句に詠みました。
有名な句を季節ごとに、季語と意味を添えて紹介します。

墨の衣に黒い頭巾をかぶった芭蕉の半身の肖像。まわりに蔦の葉が描かれている
江戸時代(18世紀)に描かれた芭蕉の肖像

有名な句と季語

春の俳句

  • 古池や蛙かわず飛こむ水のをと

    『春の日』より

季語:蛙(春)

古い池に蛙かわずが飛びこみ、水の音がした。
静まりかえった池に一度だけ音が立ち、また静けさが戻る様子が浮かびます。
「をと」は「音」のことです。
蛙かわずはカエルの古い呼び名で、春の季語です。

  • 山路やまじ來きて何やらゆかしすみれ草

    『野ざらし紀行』より

季語:菫(春)

山道を越えてくると、すみれが咲いていて、なんとなく心がひかれた。
「ゆかし」は、心がひかれる、という意味です。
「大津に出る道、山路をこえて」という前書まえがきが付いています。
前書まえがきは、句の前に添えた短い文のことです。
すみれは、春に紫の花を咲かせる小さな草で、春の季語です。

  • 草の戸も住替すみかわる代よぞひなの家

    『おくのほそ道』より

季語:雛(春)

この粗末な住まいも、住む人が替わるときが来た。
次に住む人のもとでは、雛人形ひなにんぎょうを飾る家になるだろう。
「草の戸」は、芭蕉が暮らしていた質素な家のことです。
芭蕉が住まいを人に譲って移るときの句です。
雛ひなは雛人形ひなにんぎょうのことで、雛人形ひなにんぎょうを飾る雛祭ひなまつりとともに春の季語です。

  • 行ゆくはるや鳥啼なきうをの目は泪なみだ

    『鳥之道』より

季語:行く春(春)

過ぎていく春を惜しんで、鳥は鳴き、魚の目には涙がにじんでいる。
「うを」は魚のことです。
長い旅に出る日に、見送りの人たちと別れる場面を書いた前書まえがきが付いています。
別れのつらさを、鳥や魚にまで重ねた句です。
行く春は、終わろうとしている春をいう季語です。

夏の俳句

  • 夏草や兵共つわものどもがゆめの跡

    『猿蓑』より

季語:夏草(夏)

夏草が一面に茂っている。
ここは昔、武士たちが手柄を夢見て戦った跡だ。
「兵つわもの」は武士のことです。
「奥州おうしゅう高館たかだちにて」(奥州の高館で)という前書まえがきがあります。
夏草は、夏の日ざしを受けて勢いよく茂る草をいう季語です。

  • 五月雨さみだれをあつめて早し最上川もがみがわ

    『おくのほそ道』より

季語:五月雨(夏)

降り続いた五月雨さみだれの水を集めて、最上川もがみがわが速く流れている。
五月雨さみだれは、梅雨どきの長雨のことで、夏の季語です。

  • 閑しずかさや岩にしみ入いる蟬せみの聲こえ

    『おくのほそ道』より

季語:蝉(夏)

あたりはしんと静まりかえり、蝉せみの声だけが岩にしみこんでいくように聞こえる。
寺の名の「立石寺りゅうしゃくじ」が前書まえがきになっています。
蟬せみ・聲こえは、蝉・声の古い字です。
蝉せみは夏の季語です。

  • 蛸壺たこつぼやはかなき夢を夏の月

    『猿蓑』より

季語:夏の月(夏)

蛸壺たこつぼに入った蛸たこは、朝には引き上げられるとも知らずに、夏の月の下で、はかない夢を見ている。
蛸壺たこつぼは、蛸たこをとるための壺です。
「明石夜泊あかしやはく」(明石の海で、舟に泊まった夜)という前書まえがきがあります。
夏の月は、夏の夜の月をいう季語です。

秋の俳句

  • 荒海や佐渡さどによこたふ天河あまのがわ

    『おくのほそ道』より

季語:天の川(秋)

荒れた海の向こうに佐渡さどの島があり、その上の空に天の川が横たわっている。
「よこたふ」は、横たわる、という意味です。
天の川は夏から秋の夜空によく見え、秋の季語です。

  • 名月や池をめぐりて夜よもすがら

    『孤松』より

季語:名月(秋)

名月の夜、池のまわりを歩きながら、一晩じゅう月を眺めていた。
「夜もすがら」は、一晩じゅう、という意味です。
名月は、ふつう陰暦いんれき(昔の暦)の八月十五日の夜の月をいいます。

  • 秋深き隣となりは何をする人ぞ

    『笈日記』より

季語:秋深し(秋)

秋も深まった。
隣の人は何をして暮らしているのだろうか。
芭蕉が亡くなった年の秋に詠んだ句です。
「秋深し」は、秋も終わりに近づき、季節がすっかり深まったころをいう季語です。

  • 此道このみちや行人ゆくひとなしに秋の暮

    『其便』より

季語:秋の暮(秋)

この道を行く人はだれもいない。
秋の夕暮れである。
「所思しょし」(思うところ)という前書まえがきが付いています。
秋の暮は、秋の夕暮れをいう季語で、秋の終わりごろを指すこともあります。

冬の俳句

  • 初しぐれ猿さるも小蓑こみのをほしげ也なり

    『猿蓑』より

季語:初時雨(冬)

今年初めての時雨しぐれが降ってきた。
猿も小さな蓑みのを欲しそうにしている。
時雨しぐれは、秋の終わりから冬の初めにかけて、さっと降ってはやむ雨です。
初時雨はつしぐれは、その年に初めて降る時雨しぐれです。
蓑みのは、わらなどで編んだ昔の雨具です。

  • 海くれて鴨かものこゑほのかに白し

    『野ざらし紀行』より

季語:鴨(冬)

海に日が暮れて、鴨かもの鳴く声が、ほのかに白く感じられる。
耳で聞いた声を「白し」と色で言い表しています。
「海邊うみべに日暮くらして」(海辺で日を暮らして)という前書まえがきがあります。
鴨かもは、寒くなると北の国から渡ってくる水鳥で、冬の季語です。

  • いざ行ゆかむ雪見にころぶ所まで

    『笈の小文』より

季語:雪見(冬)

さあ、雪見に出かけよう。
雪で転んでしまうところまで。
「いざ」は、さあ、と人を誘う言葉です。
本屋に立ち寄って休んでいるうちに雪が降り出した、という前書まえがきがあります。
雪見は冬の季語です。

  • 旅に病やんで夢は枯野かれのをかけ廻めぐる

    『笈日記』より

季語:枯野(冬)

旅の途中で病気になって寝ているが、夢の中では枯野かれのをかけめぐっている。
「病中吟びょうちゅうぎん」(病気の中で詠んだ句)という前書まえがきがあります。
芭蕉は、この句を詠んだ年に旅先で亡くなりました。
枯野かれのは、草も木も枯れた冬の野原です。

松尾芭蕉はどんな人か

金で模様を描いた赤い短冊に、崩した字で句が一行に書かれている
芭蕉が自分で書いた短冊。「枯枝に」で始まる秋の句(1680年代ごろ、メトロポリタン美術館蔵)

芭蕉が生まれたのは1644年、伊賀国いがのくに(今の三重県)の上野です。
もとの名を宗房むねふさといいます。
若いころは藤堂良忠とうどうよしただという人の家に仕えていました。
俳諧はいかいの好きな主人のもとで、芭蕉も俳諧はいかいを始めます。
俳諧はいかいは、何人かで句を付け合ってつないでいく文芸で、今の俳句のもとになったものです。

1666年に良忠が亡くなり、芭蕉はその数年後に江戸へ出ました。
1680年からは江戸の深川ふかがわに住み、その住まいが「芭蕉庵あん」です。
「芭蕉」という名は、この庵あんの名をとったものです。

『おくのほそ道』は、1689年の旅をもとにしています。
芭蕉は弟子の曾良そらと江戸を発ち、東北地方から北陸へ回って、美濃みのの大垣おおがきに着きました。
日数はおよそ5か月です。

1694年、旅の途中の大坂で病気にかかり、芭蕉は亡くなりました。
年は数え年で51歳です。
数え年では、生まれたときを1歳と数え、正月が来るごとに1つ年をとります。
亡くなった日の陰暦いんれき(昔の暦)十月十二日は、「芭蕉忌」として冬の季語になっています。